※本記事は2026年7月26日時点の公式情報をもとに作成しています。特にANAスーパーフライヤーズカード(SFC)の制度改定は再検討中です。最新情報は必ずANA公式サイトでご確認ください。
2026年に入り、ANAは国内線の運賃、予約システム、スーパーフライヤーズカードの制度などを相次いで見直しています。
こうした動きを受け、一部の利用者からは、
「ANAは国内客より国際線を重視しているのではないか」 「長年利用してきた顧客より、海外からの高単価客を優先するのではないか」
という見方も出ています。
実際、ANAは国内旅客事業を「実質赤字の収益構造」と説明する一方、国際旅客事業を2030年度までに1.3倍へ拡大する計画を発表しました。
ANAは本当に国内客を切り捨てようとしているのでしょうか。
この記事では、ANAの中期経営戦略、国土交通省の資料、新しい国内線運賃、SFC制度の見直しを確認し、利用者にどのような影響があるのかを初心者向けに整理します。
まず結論:国内線をやめるのではなく、赤字のまま続けることをやめる
結論からいうと、ANAが国内線を完全に切り捨てるとまではいえません。
ANAは公式に、国内旅客事業を「安定した収益基盤へ復元する」と説明しています。地方路線をすべてなくしたり、国内線から撤退したりする方針ではありません。
ただし、これまでと同じ運賃・機材・サービスを維持したまま国内線を運営するのではなく、利用者が選ぶ運賃によってサービス内容を分け、機材や便数も需要に合わせて調整する方向へ進んでいます。
一言でまとめると、
国内線をやめるのではなく、赤字のまま今までと同じ形で続けることをやめる
というのが、現在のANAに最も近い見方です。
今回押さえたい事実は3つあります。
- ANA国内線は「実質赤字の収益構造」
- ANAグループ全体は過去最高益
- 国際旅客事業は2030年度までに1.3倍へ拡大
一見すると矛盾しているようですが、事業ごとに分けて見ると理解できます。
ANA国内線は本当に赤字なのか
ANAは個人投資家向けの説明資料で、国内旅客事業について次のように説明しています。
売上拡大と事業効率化の両面から、自助努力・協業を推進し、実質赤字の収益構造を抜本的に変革
つまり、「国内線は実質赤字」という表現は、外部の評論家だけが使っている言葉ではなく、ANA自身が使っているものです。
「実質赤字」とはどういう意味?
ここでいう実質赤字は、国や空港による負担軽減策がなかった場合を想定した赤字です。
国土交通省は、次の公的な負担軽減措置を除いて国内線の収支を試算しています。
- 空港使用料の減免
- 航空機燃料税の軽減
- 航空機燃料価格の激変緩和事業
その結果、ANA、JAL、スカイマーク、AIRDO、ソラシドエア、スターフライヤーの主要6社は、2023年度と2024年度の国内線事業で実質的な営業赤字に転落したとされています。
ただし、これは主要6社を合計した試算です。「ANA国内線が何億円の赤字だった」と示した数字ではありません。
ANA単独については、ANA自身が「実質赤字の収益構造」と説明していることを根拠にするのが正確です。
なぜ国内線の利用者が戻っても赤字なのか
国内線の旅客数は、すでにコロナ禍前と同程度まで回復しています。
それでも採算が苦しい理由は、利用者数だけではありません。
燃料費・整備費・人件費が上昇
航空会社は、航空機の燃料、海外製の部品、整備などに多くの費用を使います。
円安になると、ドルなど外貨で支払う費用の円換算額が増えます。原油価格が上がれば燃料費も増え、人手不足の中で人材を確保するには人件費も必要です。
国土交通省によると、大手2社の営業費用は2018年度から2024年度にかけて16%上昇しています。この数字は国際線も含みますが、国内航空を取り巻くコスト上昇の大きさが分かります。
高単価の出張需要が戻っていない
コロナ禍をきっかけにオンライン会議が広がり、出張・業務目的の航空利用は以前の水準まで戻っていません。
観光客が増えても、安い運賃を利用する人が中心では、1人あたりの収入は伸びにくくなります。
飛行機の座席が埋まっていることと、その便が十分な利益を出していることは同じではありません。
一方でANAグループ全体は過去最高益
「国内線が赤字なら、ANAの経営は危ないのでは」と思うかもしれません。
しかし、2026年3月期のANAホールディングスは過去最高の業績を記録しました。
| 項目 | 2026年3月期 |
|---|---|
| 売上高 | 2兆5,392億円 |
| 営業利益 | 2,174億円 |
| 当期純利益 | 1,690億円 |
売上高、営業利益、当期純利益はいずれも過去最高です。
ANAグループには国内線だけでなく、国際旅客、貨物、Peach、旅行、商社などの事業があります。訪日客の増加や国際線、連結子会社となった日本貨物航空の収入などが、グループ全体の業績を押し上げました。
したがって、
ANAグループ全体は好調だが、国内線の収益構造には大きな課題がある
という理解が正確です。
ANAは国際旅客事業を1.3倍へ拡大
ANAは国際旅客事業と貨物事業を、今後の成長を引っ張る「成長ドライバー」に位置付けています。
国際旅客事業は2030年度までに1.3倍へ拡大する計画です。
1.3倍になるのは便数ではない
注意したいのは、1.3倍の対象が「座席キロ」であることです。
座席キロとは、飛行機が提供する座席数に飛行距離を掛けた数字です。
例えば、
- 100席の飛行機を1,000km飛ばす:10万座席キロ
- 200席の飛行機を1,000km飛ばす:20万座席キロ
となります。
大きな飛行機を使ったり、長距離路線を増やしたりしても座席キロは増えます。そのため、「国際線の便数が一律で1.3倍になる」という意味ではありません。
羽田と成田を段階的に使う
ANAの計画は次の流れです。
- 2028年まで:羽田便を優先的に拡充
- 2029年以降:成田空港の拡張後、北米線・アジア線を増強
- 2030年度:成田便の事業規模を2025年度比1.7倍へ
羽田だけに国際線を集中させるわけではありません。2029年以降は成田も重要な成長拠点になります。
ANAは海外の富裕層を優先するのか
一部には「ANAは日本人の国内客より、海外の富裕層を優先するのではないか」という見方もあります。
ANAの公式資料では、次の方針を確認できます。
- 海外から購入する利用者の比率を高める
- 北米とアジア間の乗り継ぎを便利にする
- 訪日客を取り込む
- 高いイールドを維持・向上する
イールドとは、旅客1人を1km運んだときに航空会社が得る収入です。初心者向けには「平均的な客単価に近い指標」と考えると分かりやすいでしょう。
つまり、ANAが国際線で高単価の需要を取り込もうとしているのは事実です。
一方、「東南アジアの富裕層だけを主なターゲットにする」とは公式資料に書かれていません。
正確には、訪日客、海外発客、北米とアジアを乗り継ぐ人など、成長が期待できる国際需要を幅広く取り込む戦略です。
国内線は「切り捨て」ではなく収益構造改革
ANAは国内旅客事業について「安定した収益基盤へ復元する」と明記しています。
主な施策は次のとおりです。
- 路線ごとの需要に合わせて機材や便数を調整
- 2028年度以降にエンブラエルE190-E2型機などを導入
- 訪日客の国内移動需要を取り込む
- JALと空港の地上業務で協業
- 運賃体系や予約システムを刷新
エンブラエルE190-E2は、100席前後の比較的小さな旅客機です。大型機では座席が余りやすい路線でも、需要に近い座席数に調整しやすくなります。
国内線を公共交通として維持する役割は重要ですが、ANAが国内線を「ボランティア事業」と位置付けた事実はありません。民間企業として採算改善を進めること自体は、自然な経営判断です。
問題は、その過程で既存利用者の負担や不便がどの程度増えるかです。
2026年5月から国内線運賃が変わった
ANAは2026年5月19日から、国内線運賃をフレックス、スタンダード、シンプルなどに刷新しました。
エコノミークラスの主な違いは次のとおりです。
| 項目 | フレックス | スタンダード | シンプル |
|---|---|---|---|
| 予約変更 | 可・手数料無料 | 可・手数料有料 | 不可 |
| 事前座席指定 | 可 | 可 | 出発24時間前から |
| 無料手荷物 | 23kg・2個 | 23kg・2個 | 23kg・1個 |
| アップグレード | 可 | 可 | 不可 |
シンプルは、価格を抑える代わりにサービスを絞った運賃です。
「座席指定が一切できない」のではなく、出発24時間前からオンラインチェックイン時に空いている座席を指定できます。
家族旅行では運賃名だけで決めない
子どもと隣同士に座りたい場合、出発24時間前まで座席が選べないシンプルは不安が残ります。
ANAも、子ども連れで事前に座席指定を希望する場合は、座席指定ができる運賃を予約するよう案内しています。
航空券の表示価格だけでなく、次の条件を確認しましょう。
- 座席指定の開始時期
- 予約変更の可否
- 取消手数料
- 預け手荷物の個数
- アップグレードの可否
安い航空券を買った後で必要なサービスを追加すると、上位運賃との差が小さくなる場合もあります。
参考:ANA「国内線運賃一覧」
予約システムの刷新ではANAが公式に謝罪
国内線のサービス刷新後、ANAのウェブサイトやアプリでは、予約、購入、照会、チェックインなどに時間がかかる問題が発生しました。
新運賃やサービスに関する問い合わせも急増し、電話がつながりにくく、メールの返信にも時間がかかる状況となりました。
ANAは2026年6月11日、利用者に不便と心配をかけたとして公式に謝罪しています。
改革の目的が効率化や利便性向上であっても、利用者が実際に予約できない、問い合わせがつながらない状態では、顧客満足度は下がってしまいます。
「変更内容」だけでなく、「変更の進め方」もANAが問われている理由です。
SFC「年間300万円案」はどうなった?
ANAの既存顧客から特に大きな反応が出たのが、スーパーフライヤーズカード、通称SFCの制度見直しです。
そもそもSFCとは
SFCは、原則としてANAの「ダイヤモンドサービス」または「プラチナサービス」のステイタスを獲得した人が申し込める、クレジットカード機能付き・年会費有料のカードです。
カードを保有し続けることで、優先チェックイン、優先搭乗、手荷物の優先受け取り、ラウンジなどのサービスを利用できます。
ダイヤモンドサービスは、毎年の搭乗実績によって決まるプレミアムステイタスです。SFCは、条件を達成した後に申し込んで保有するカードです。両者は同じ制度ではありません。
当初案では年間300万円で2区分
ANAが公表した当初案では、ANAカードとANA Payの年間決済額によってSFCを2区分に分ける内容でした。
| 当初案の区分 | 年間決済額 | 主なサービス |
|---|---|---|
| SFC PLUS | 300万円以上 | ANAラウンジ利用可、スターアライアンス・ゴールドなど |
| SFC LITE | 300万円未満 | ANAラウンジ利用不可、スターアライアンス・シルバーなど |
既存のSFC会員も対象とされていたため、これまでカードの年会費を払い続ければ利用できたサービスに、年間決済額という新しい条件が加わる内容でした。
現在は「再検討中」
重要なのは、年間300万円という条件が確定したわけでも、完全に撤回されたわけでもないことです。
ANAは公式サイトで、
多くのお客様よりご意見をいただいています。現在、改定内容について、見直しを検討しています。
と説明しています。
制度改定の詳細は2026年9月末までに再案内される予定です。
そのため、2026年7月26日時点で「年間300万円未満ならラウンジが使えなくなる」と断定するのは早すぎます。
SFC改定の経緯は、こちらの記事でも整理しています。
ANA SFC改定が見直しに|2026年6月時点で分かることを整理
ANAとJAL、戦略は正反対なのか
一部では、
ANAは効率化と収益性を優先し、JALは国内利用者に寄り添っている
という見方があります。
確かに、2026年の発表だけを見ると、両社の見せ方には違いがあります。
JALは国内線について、次のサービス強化を発表しています。
- ファーストクラス搭載の新型機を導入
- ファーストクラス設定路線を全国へ拡大
- 国内線アプリを刷新
- 羽田空港国内線ラウンジをリニューアル
- ファーストクラスの機内食・飲料を刷新
一方、ANAでは新運賃、システム統合、SFC制度など、利用条件を変える改革が目立ちました。
ただし、JALも経営計画で「国際線の成長」と「国内線の収益性改善」を掲げています。国際線の機材など成長分野へ経営資源を重点的に配分する方針もANAと共通しています。
したがって、
JALは日本人重視、ANAは利益重視
と単純に分けることはできません。
現時点では、JALは国内線サービスの拡充を前面に出し、ANAは運賃・制度・システムの改革が目立つ、という違いです。
ANA利用者は今後どうすればいい?
価格を最優先する人
シンプルを候補にできます。ただし、座席指定は出発24時間前から、予約変更不可、無料手荷物は23kg・1個、アップグレード不可です。
表示価格だけでなく、必要なサービスを含めた総額で比較しましょう。
家族旅行をする人
並び席を早めに確保したいなら、事前座席指定ができるスタンダード以上を比較します。
家族全員分の運賃差と、座席を選べないリスクを比べることが大切です。
予定が変わりやすい人
シンプルは予約変更ができません。出張や子どもの体調などで予定が変わりやすい場合は、変更条件と取消手数料を優先して選びます。
SFC会員
年間300万円を達成するためだけに、不要な買い物や決済を増やす必要はありません。
現在は制度の再検討中です。2026年9月末までに予定されている正式発表を確認してから判断するのが安全です。
ANAとJALを選べる人
運賃だけではなく、次の条件を含めて比較しましょう。
- 空港と時間帯
- 座席指定
- 預け手荷物
- 予約変更・取消
- ラウンジ
- マイル・ステイタス
航空会社への愛着も大切ですが、旅行ごとに条件を比べる方が、余計な負担を抑えられます。
よくある質問
Q1.ANAは国内線を縮小しますか?
需要動向に応じた減便・運休や機材の小型化は進めます。ただし、ANAの公式方針は国内旅客事業を安定した収益基盤へ復元することで、国内線からの撤退ではありません。
Q2.国際線が1.3倍になると、便数も1.3倍ですか?
いいえ。1.3倍は座席数と飛行距離を掛けた「座席キロ」です。大型機や長距離路線を増やすことでも拡大します。
Q3.シンプルでは座席指定ができませんか?
出発24時間前から、オンラインチェックイン時に空いている座席を指定できます。それより前の事前座席指定はできません。
Q4.SFC会員は年間300万円使わないとラウンジを利用できなくなりますか?
まだ確定していません。当初案ではその内容でしたが、ANAは現在、制度を再検討しています。2026年9月末までの再案内を確認してください。
Q5.ダイヤモンド会員とSFC会員は同じですか?
同じではありません。ダイヤモンドは毎年の搭乗実績によるプレミアムステイタス、SFCは原則としてダイヤモンドまたはプラチナ到達後に申し込める年会費有料のカードです。
Q6.JALなら今後もサービスは変わりませんか?
そうとは限りません。JALも国内線の収益性改善を進めています。現在の発表では国内線サービスの拡充が目立ちますが、今後の運賃や制度が変わらない保証はありません。
まとめ:問われるのは国際線シフトより既存顧客との向き合い方
ANAが国内線を完全に切り捨てると判断するのは早計です。
ANAは国内旅客事業を安定した収益基盤へ戻す方針を明記しており、新しい機材の導入や需要に合わせた調整を進めています。
一方、次の変化も事実です。
- 国内線は実質赤字の収益構造
- 国際旅客事業を2030年度までに1.3倍へ拡大
- 国内線運賃はサービス内容によって明確に区分
- SFC制度にも年間決済額を導入する案が出た
問題は、国際線を伸ばすこと自体ではありません。
新運賃や制度変更による負担を、長年利用してきた顧客へどのように説明し、納得してもらうかが問われています。
企業として収益改善は必要です。しかし、航空会社の価値は路線数や利益だけでなく、「これからも利用したい」と思ってもらえる信頼にもあります。
ANAが国内線の収益改善と既存顧客の満足を両立できるのか。
2026年9月末までに予定されているSFC制度の再案内は、その姿勢を判断する重要な材料になりそうです。